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レはレザーのレ

革靴、革財布、革ジャン、ベルトにバッグ…これまで、身近にあるさまざまな革アイテムをご紹介してきました。高級そうだし、持つにはちょっとハードルが高いかしらと思っていたものに、少しずつ親近感がわいてきた頃でしょうか。その見た目の美しさだけではなく、私たちの手元にやってくるまでのさまざまな工程で職人さんたちの技が光っていることも忘れてはなりません。
生活に関わるお話を多めにしてきたので、「こんなところにも革が!」という変わり種もお話ししたいと思います。
今回注目するのは、音楽の世界です。

私事で恐縮ですが、昔は音楽をいろいろとかじっておりまして。「音符が読めるようになりたい」と母にせがんでピアノ教室に通い始め、小学校中学年になると金管楽器を演奏する部活動に入部、運動会ではマーチングのパフォーマンスをしました。中学校でもその流れのまま吹奏楽部に入学し、一転して木管楽器に苦戦する日々でしたが、大会を目指して仲間たちと切磋琢磨したあの日々が、いわゆる青春というものだったのでしょうか。今では楽器に触る機会もめっきり減ってしまいましたが、時折「また吹きたいなあ」と思うことは少なくありません。何より、音楽そのものはずっと大好きですしね。

そんな学生時代、部活動の休憩時間になると部員たちがこぞって集まる一角がありました。それは、打楽器ゾーン。全員で合奏練習をするときは広い音楽室に半円状に並び、いちばん後ろに打楽器軍団が構えているという状態になるのですが、休憩になるとみんな打楽器を触りに遊びに行くのです。だって、ドラムセットとかティンパニーとか、触れるものならかっこよく叩いてみたいと思うじゃないですか!例に漏れず私も音楽室の後方に足を運びドンドン、ドコドコと遊ばせてもらっていました。もう、バチを持っただけでテンション上がりますもん。当時、打楽器選んでもよかったなと何回か思ってしまったことは内緒です。

さて、だいぶ前置きが長くなり今回はこいつの思い出話で終わるんじゃないかと心配し始めた方もいることでしょう。大丈夫です、ここからが本題なのです。

革と関わりのある音楽の世界のアイテム、それは打楽器です。どこが?と疑問に思われる方も多いと思いますが、太鼓の叩く面…専門用語で「ドラムヘッド」という、あの部分が「革」なのです。もっとも最近は耐久性やコスト面の関係でプラスチック製のものが主流になっているようですが、まだ本革も健在です。思えば、小学校の頃触らせてもらったあのスネアドラムも革っぽかったなあと、今になって気づきました。

バンドマンが叩いているドラムだとあまり想像がつきにくいかもしれませんが、和太鼓ならいかがでしょう?美しく張られたあの「面」であれば、革と言われるとなるほど確かにと思えるのではないでしょうか。和太鼓の面には牛革が使われています。ふやかした革を太鼓の形に合うように整えて乾燥させたものを、打つほうの面だけ再度ふやかして本張りしてつくるのですが、張ってしまったら音程の調整ができなくなるので革を張りながら音を調整するのだとか。繊細な作業なんですね。

またまた思い出話になりますが、部活動の合間ではなく正式に(?)和太鼓を体験したこともあります。伊豆大島の伝統芸能「御神火太鼓」をご存知でしょうか。三原山の火口から噴き出す炎を神の炎(御神火)と崇め、それを和太鼓の集団演奏で表現した伝統なのですが、こちらなんと、両サイドにある和太鼓を同時に打つという熱いパフォーマンスが見られるのです。私は修学旅行先で体験させていただいたのですが、10年以上経った今でもあのときのことはよく覚えています。中学生の身体であのド迫力の太鼓を思いっきり叩くというのは結構力が要ったのですが、一緒に体験した子と息を合わせて演奏した瞬間は、何とも言えない高揚感で胸がいっぱいになりました。

あの力強い音、そして一体感を生み出し、私たちと「音」の架け橋になってくれているのが革なんだと思うと、なんだか感慨深いものがあります。ありがとう、革さん。あなたたちのおかげで、とても素敵な音楽が生まれているんですね。そういえば、打楽器ではなかったものの、愛用していた楽器のケースは黒くてかっこいい革でした。音楽準備室の棚にズラリと並んだ黒い楽器ケースたち。実はずいぶん前から私は革に囲まれていたようです。
この音楽界の「革」率、やっぱりレはレモンじゃなくてレザーのレ、でもいいと思うんだけどな。

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