もう40回まできたのか…と過去のコラムを振り返っていたら、良いことがありました。なんと、「別の回でネタになるだろうから」と、とあるテーマがメモされた回があったのです。グッジョブ、過去の私。時を超えて何か贈り物ができるとしたら、その時の自分にだいぶ早めのお中元でも送っておこうと思います。
さて、そのネタが何だったかと言いますと、革の「ニオイ」についてです。以前スポーツと革というテーマでコラムを書いた際、学生の頃授業で取り組んだ剣道の防具に染みついたニオイがすごかったという話をして、あの独特なニオイには何か理由があるのだろうか…と書いたことを深掘りしていってみたいと思います。
純粋に考えて、剣道の場合のニオイの原因は「人間の汗」でしょう。あれだけ通気性が悪そうな防具なのですからそりゃあそうだという話ですが、それにしたってなんだか変わったニオイなんです。単純にうわっ汗くさっ!というのではなく、何かと混ざっているような…そう考えた場合に、残る原因としては「革そのもののニオイ」ということになります。革はもともと動物の皮膚だったものなのでイコール動物の匂いとも考えられますが、いわゆる“獣臭さ”とも違う。「あなたの風邪はどこから?」という有名なCMがありますが、まさに「あなたのニオイはどこから?」状態です。悶々としていても仕方がないので、冒頭に書いたご利益(?)にあやかれないかとこれまたコラムを遡っていたら…ありました。ニオイの原因が発生しそうな加工過程が。
革製品をつくる過程において欠かせないのが「なめし」作業です。その中では、「クロム」という化学薬品が使用されることがあります。クロムなめしは、以前コラムで「時間をかけずにしなやかな仕上がりになる」と紹介した通り、効率が良く多用されている加工方法。このクロムが革独特の匂いに関係しているに違いない!…と鼻息荒く結論付けようとしたら、こんな情報を見つけてしまいました。
– クロム鞣剤は揮発性物質が少ないため、皮革の主要なにおい成分にはならない –
なんだって!?クロムはどこまで優秀なんでしょうか。なめし加工しやすいうえにニオイも出ないとは…。では一体何が原因なのかと地団駄を踏みそうになるのを堪えて上記の資料をよくよく読んでみたら、答えがすぐに書いてありました。
– 皮革製品のにおいにおいて、動物の生体から発するにおい成分は皮革製造工程においてほとんど取り除かれているため、皮革製造に使用される鞣剤、仕上げ剤や加脂剤など製造工程で使用される薬品が主要な成分である。 –
どうやら仕上げの段階で使われるシンナーや加脂剤が、主なニオイ成分になっているようです。確かに、製品にするということは接着剤を使ったりもするのでその段階でニオイが発生するのは納得です。しかし、数ある工程を経て私たちの手元に革製品が届くまでの間にさまざまな薬品が使われていても、普段使用するうえでさほど気にならない状態になっているというのはありがたいことですね。きっと遥か昔からの試行錯誤の果てに辿り着いた方法なのでしょう…。また歴史のロマンを感じてしまいました。
それにしても、今回珍しくイチから推理してみようと思っていた私だったのですが、やはり資料に勝るものはありませんでした。ぐぐ、無念。一体自分が何を張り合っていたのかもわかりませんが、ようやく解決にこぎつけ一件落着です。
出鼻はくじかれましたが、革探偵というのも悪くないかも?と、メガネに蝶ネクタイのあの少年を思い浮かべてしまいました。