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売り言葉に言葉

突然ですが、本が好きです。読むのも見るのも触るのも。最近は電子書籍が増えてきて、かくいう私も利用していることはしているのですが、やっぱり紙がいいなあと思ってしまいます。モノとしての質は、ずっしり感や手触りが伝わる書籍に軍配があがるというわけです。まあ、手軽なのは電子版なんですけどね。学生時代も、さすがに辞書は途中から電子辞書になってしまいました。

さて、何について書こうかなあと考えていた矢先、ふと「革とことば」なんていうテーマはどうだろうと思いつきました。物理的な皮や革についてはこれまで散々お話ししてきましたが、考え方や概念の部分ではあまり話題にしていなかったな、と。いつぞや書いたアイスマンの話のように、歴史の教科書の最初のほうのページに載るくらい古い時代から、革は存在していたことがわかっています。であれば、ことわざや慣用句になっていてもおかしくないはず!
ということで、今回は皮や革にまつわる日本のことわざを2つ紹介しようと思います。

まずは「皮切り」。意味としては「物事のし始め。手始め」という意味で、ほとんどの人が聞いたり使ったりしたことがあるのではないでしょうか。私も、物事の始まりをちょっとかっこよく表現したい時に使っちゃいます。でも、よく考えたらなんで皮を切るんだ?やきとり屋なのか?と、そういえば疑問でした。この「皮切り」、実はお灸用語なのだそうです。私はお灸を据えられたことがないのでわかりませんが(もう一つの意味ではあるんですけどね…)、最初に据えられる灸は皮が切られるような痛みを感じるのだそうです。それが転じて、最初という意味が含まれることばになったのだとか。そんな痛そうな意味だったとは…次からこの言葉を使う時は、ちょっとビクッとしてしまいそうです。

そして、もう一つは「新しい酒は新しい革袋に盛れ」ということわざです。こちらは逆に馴染みがない人の方が多そうな印象です。私も調べていて初めて知りました。直感で「この感触は、もしかして海外のことわざ…?」と思ったら、正解でした。こちら、出典は『新約聖書』。正確には、『新約聖書』マタイ伝第九章の「新しき葡萄酒を古き革袋に入るることは為じ。もし然せば袋張り裂け、酒ほとばしり出てて袋もまた廃らん。新しき葡萄酒は新しき革袋に入れ、かくて両つながら保つなり」という一節に由来します。訳は「新しいぶどう酒は古い革袋には入れない。そんなことをすれば革袋が破れて酒が漏れるし、袋もだめになる。新しいぶどう酒は新しい革袋に入れれば、ぶどう酒も袋も両方が保たれる」。普通に読んだら「そりゃあ、そうですよね」という文章ですが、みなさまこれが聖書だということをお忘れなく。ここでいう「新しき葡萄酒」とは、それまでのユダヤ教に代わるキリスト教の教えを指しており、これが「新しい思想や内容を表現するには、それに応じた新しい形式が必要だ」という意味の基になっているようです。

やっぱり革はずっと昔から文化として根付いていたということがわかりました。こうして、ちょっと違う角度から攻めてみるのもたまにはいいですね。それこそ、この第37回を「皮切り」に、革と言語について考えてみようかしら…なんちゃって。

参考:
語源由来辞典
故事ことわざ辞典

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